EP更新・転職時の税金・給与への影響|現地採用が知るべき手続きと落とし穴
現地採用社員がEP(就労ビザ)を更新したり転職したりすると、給与計算・税申告・社会保障に思わぬ影響が出ます。日本と異なるマレーシアの仕組みを、手順と注意点で整理します。

マレーシアの現地採用社員が見落としやすい問題
マレーシアでEP(Employment Pass)を更新する、または新しい会社に転職する——こうした場面で「給与が下がった」「税金が多く引かれた」「EPFが反映されていない」という事態に直面する現地採用社員は少なくありません。
日本では転職や契約更新時、雇用形態や給与額の変更があっても、その後の給与計算は比較的シンプルです。しかしマレーシアでは、EP更新・転職のタイミングで、複数の行政手続き、給与控除(EPF・SOCSO・EIS・PCB)、税申告の時間軸がずれやすく、これが予期しない手取り減につながることが多いのです。
本記事では、EP更新と転職時に実際に何が起きるのか、手続きの流れと各段階での注意点をまとめます。
EP更新と転職は手続きが異なる——まずここから
EP更新(同じ会社で契約継続)
EPは通常3年の有効期限があり、更新には政府機関イミグレーション部門(Immigration Department)への申請が必要です。更新プロセスは以下のような流れになります:
- 現雇用主がイミグレーションに更新申請を提出
- 申請期間中、あなたのEPは有効状態が継続(多くの場合、古いEPで就業可能)
- 新しいEPが発行される
給与・税務面での影響:
- 同じ雇用主なので、給与額に変更がなければ控除項目(EPF・SOCSO・EIS・PCB)も基本的に変わりません
- ただし「給与が上がる」などの変更がある場合、会社の人事部が給与シートを新しい額で登録し直す必要があります
- この登録ミスが発生しやすいポイントです
転職(別の会社に移動)
転職の場合、手続きはより複雑です:
- 前職のEPをキャンセル(辞職時に処理)
- 新職のEPを新規申請
- 新しいEP取得まで(数週間~数ヶ月)、あなたは新しい会社で「有効なEP無しの状態」が生まれるリスクがあります
- 新EP発行後、初めて新会社で合法的に就業できます
給与・税務面での影響:
- 前職の給与計算は離職月で終了
- 新職の給与計算は新EP発行月から開始
- この間の日数で「給与の空白」や「端数月の給与計算」が発生
- EPF・PCBなども新しい会社の登録番号で新規開始となるため、個人のEPFナンバーと新会社の記録がズレると、後から合算が難しくなることがあります
給与控除(EPF・SOCSO・EIS・PCB)で起きる具体的なトラブル
EPF(Employees Provident Fund・従業員積立基金)の落とし穴
EPFはマレーシアの年金・積立制度です。給与から毎月天引きされ、会社も同額を拠出します。
更新時:
- 同じ雇用主での更新なら、既存のEPF口座に継続して積み立てられます
- ただし給与額変更時、会社の記録を更新し忘れると「古い給与額での控除」が続く可能性があります
転職時:
- 前職でのEPFは凍結(積立終了)
- 新職ではあなたのEPFナンバーは同じですが、新会社が新しい「会社控除番号」で拠出を開始します
- これらが正しく統合されないと、年次査定(Annual Reconciliation)で誤差が生じ、税申告時に混乱します
- 重要:転職後、新会社が「あなたのEPFナンバーを正しく登録したか」を給与明細で確認することが必須です
SOCSO(Sosial Keselamatan Pekerja・労災・障害保険)
給与から控除され、会社も拠出する社会保障制度です。
更新・転職時の注意:
- 転職の場合、新会社が新しくSOCSO登録を行う必要があります
- 登録が遅れると、その間に事故や病気が起きても補償対象外になるリスクがあります
- 給与明細でSOCSO番号が新しいものに切り替わったか確認してください
PCB(Cess for Rehabilitation and Training・職業訓練費)
給与から控除される職業訓練費で、業種によって控除率が異なります(0~1.5%程度)。
転職時:
- 業種が変わると、PCB控除率が変わる可能性があります
- 例えば、建設業から事務職に転職した場合、PCB控除率が低くなり、手取りが増える場合があります
- 逆に手取りが思ったより減らない理由がここにあることもあります
個人所得税(Personal Income Tax)申告への影響
更新年度の税申告
マレーシアの税年度は1月~12月で、翌年3月~6月に申告期間があります。
EP更新(同じ雇用主):
- 同一の雇用主から1年間の給与を得ていれば、通常通り申告します
- 会社がIR8A(年間給与証明書)を提出してくれるので、あなたはそれに基づいて申告(または会社が代理申告)します
給与が上がった場合:
- 控除額の上限(Relief Limit)が変わることがあります
- 例えば、EPFやPCBの控除限度額は給与に応じた計算式が異なるため、税務署から追徴税が来ることがあります
- 給与上昇時は「前年度の控除額と今年度の控除額で差が出る」と認識しておくと、後に慌てません
転職年度の税申告(最も複雑)
複数雇用主からの給与を受けた場合:
- 1月~3月:前職(A社)から給与 → A社のIR8A
- 4月~12月:新職(B社)から給与 → B社のIR8A
この場合、両社のIR8Aをもとに、年間の総給与で税申告をする必要があります。
起こりやすい問題:
- 二重控除:新会社が前職の給与をカウントせず、新会社の給与だけで「新規計算」してしまい、あなたが本来より多く税金を納める
- 配偶者控除の二重適用:配偶者がいる場合、控除をA社とB社の両方で受けてしまう
- IR8A未発行の遅延:転職時に新会社がIR8Aを期限内に税務署に提出しないと、税務署側の記録に反映されず、年末調査で余計な連絡が来る
対策:
- 転職時、前職の会社にIR8Aの発行を依頼し、新職の会社にも「前職の給与がある」ことを伝えます
- 税務申告時期(通常4月~6月)に、両社のIR8Aを手元に揃え、税務署に提出する前に内容を照合します
- 自分で申告する場合は、税務署ウェブサイト(LHDN Online)で両社の給与記録が表示されることを確認します
EP更新・転職時の実務チェックリスト
EP申請・発行段階
- [ ] 新しいEPが発行された日付を確認(給与計算の基準日になる)
- [ ] 新EP上の雇用主情報、給与額が正しいか目視確認
- [ ] 前職がある場合、前職のEPキャンセル完了を確認(後から問い合わせあるとトラブル)
給与計算・控除段階
- [ ] 最初の給与明細で、新しい控除先機関番号(SOCSO・EPF・PCB)が表示されているか確認
- [ ] EPFナンバーが変わっていないか確認(通常は同じナンバーのまま)
- [ ] 給与額が雇用契約と一致しているか
- [ ] 「端数月給与」の計算方法(日割り計算)が正しいか
- 例:4月15日入社の場合、4月は15日~30日分のみの給与になるべき
税申告・年次手続き段階
- [ ] IR8Aを受け取った時点で、記載内容を確認(給与額、控除額)
- [ ] 複数雇用主の場合、両社のIR8Aを揃える
- [ ] LHDN Onlineで自分の給与記録が表示されるか確認(通常、6月末までに反映)
- [ ] 税務申告書(個人年度税務申告)の提出前に、配偶者控除などの重複がないか確認
よくある質問と対策
Q: 転職後、新会社の給与が前職より低いのに、手取りがさらに低い。なぜ?
A: 以下の可能性が考えられます:
- PCB控除率が変わった(特に建設業から非建設業への転職)
- 給与計算が「初月のみ日割り計算」され、フル月給でない
- 新会社が異なるボーナス体系(例:13ヶ月分 → 12ヶ月分)を採用している
- 前職の未払い給与が新会社との相殺で調整された
各項目を給与明細で照合し、会社の人事部に問い合わせることをお勧めします。
Q: EP更新中に給与支払いのタイミングはどうなる?
A: EP更新中も、通常は通常通り給与が支払われます。ただし、更新に時間がかかっている期間に転職する場合は注意が必要です。新EP発行まで「技術的に就業できない期間」の給与をどう扱うかは、雇用契約と会社の方針によって異なります。事前に確認してください。
Q: 転職後、前職のEPFを新会社の口座に移せますか?
A: いいえ。前職のEPFはあなたの個人EPFナンバーで管理され、新会社の新しい拠出記録も同じナンバー下で統合されます。あなたが何もしなくても、両社の拠出は同一の個人EPFアカウントに積み上がります。ただし、新会社があなたのEPFナンバーを間違えて登録した場合は、手動で修正依頼が必要です。
まとめ:手続きと税務のズレを最小化する工夫
EP更新・転職時は、ビザ手続き、給与計算、税務申告が異なるタイムラインで動くため、一つでも情報が欠けると手取り減や税務トラブルが生じます。
最重要ポイント:
- 最初の給与明細をじっくり読む——控除先機関番号や計算式に誤りがないか
- 複数雇用主の場合、税務署に事前相談——自治会やTax Authority(LHDN)の電話相談窓口で確認
- IR8Aを入手したら、即座に内容照合——間違いは申告期限内に訂正が容易です
- 会社の人事部に「前職の給与がある」ことを明確に伝える——二重控除防止のために重要
マレーシア滞在が長くなると、こうした行政手続きは日常の一部になります。最初は複雑に見えても、フローを一度経験すれば、次からは落ち着いて対応できるようになります。
本記事は一般的な情報です。制度・料金・要件は変わることがあります。個別の判断は公式窓口や専門家にご確認ください。






